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HOMEボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢をみるか?(カイミクSS)の記事
2024-05-03-Fri 13:42:37 │EDIT
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2008-07-02-Wed 12:43:10 │EDIT
何故か、気がついたらここに来ていた。
初めての筈なのに、ここにたどり着いた瞬間、懐かしいような安堵したような……涙が溢れて止まらなかった。――――「兄」の歌を初めて聴いた時と同じだった。



ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか? 8



何故だかそこにいると思った。
VOCALOID相互トレーサープログラムを立ち上げるまでもなく、そこに足を向けていた。
人間でいう予感や直感というものか。
(……いや、願望なのか)
「今のミク」がそこに行く可能性は0にも等しい。それでも―――。

確かめずにはいられなかった。



CFM社からほど近くにある小さな公園。育成カプセルに入る前のミクを、こっそり何度か連れてきたことがあったその場所。

滑り台の下の大きな土管の中を思わせるような、コンクリ台に空けられた空間が当時のミクはいたく気にいっていた。


足を踏み入れた公園は――――あの頃と同じように、桜は咲き誇り、風に花弁を遊ばせていた。
造りものの筈の心臓が自棄に音を立てている。
構成プログラムが今にも暴走しそうな気がした。


花びらに染められた遊具の中、一際大きな滑り台。
深呼吸を一つして、KAITOはそれに近づいた。



いた。
彼女だ。



抱えた膝に顔を埋めて、声を殺して泣いている、淡い青みがかったペパーミント色した長い髪の少女。


「……ミク?」


やっとのことでかけた声に、少女は顔を伏せたままビクリと震えた。
「見つけた。ミクだね?」
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2008-07-01-Tue 08:19:37 │EDIT
この「私」が、「彼」に会うのは、初めてで。
早く会いたいと思う反面、会うのが何故だかひどく怖くて、会いたくないとも思う。
そんな不安定な気持ちは、歌声に表れてしまった。



ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか? 7





この北の地の、春の訪れは遅い。
(俺、ずっと春の中だな)
少し前に浜松で見送った筈の春に、こうしてまた出迎えられている。

KAITOは軽く息を吐くと「港」代わりのPCから、実体化した。


半有機体の自分達VOCALOIDは、勿論、機械ではないから飛行機に乗ることは物理的には可能だ。
如何せん、体を構成するもう半分は、プログラム。――――プログラムが拠り所になるPCが作動していなければ実体化ができないのだから(仮想空間内ならともかく)現実的には不可能だ。
よってインターネットのような電子媒介(通信)を使っての移動が専らになる。


「やっと帰って来たわね、放蕩長男坊」
呆れたような、でもほっとしたような声でKAITOを出迎えたのはMEIKOだけだった。……ミクはどうしたのだろうか。
「あれ、めーちゃんだけ?」
「ご不満?」
「滅相もゴザイマセンヨ、姉上。……お土産は昨日中に宅配手配したから、も少し待ってよね」
「土産巻き上げる為に出迎えたみたいに云わないでよ。…で、何よ土産って」
「志太泉酒造の、昇龍と、品評会吟醸」
「あら、それは届くの楽しみだわ」
軽く口笛を吹いてMEIKOは笑んだ。
「……じゃ、その土産に免じて意地悪しないでおきますか。ミクは今ユクエフメイなのよ」
「……は?」
ユクエフメイ?
なんの事だとKAITOの思考が一瞬止まった。
「ここ二、三日うまく歌えなくてね、ミク。さっきとうとう癇癪爆発させて飛び出して行ったのよ」
困ったわー、と楽しそうに呟くMEIKOに、ようやくユクエフメイ=行方不明だと言葉の意味を理解し慌てたのはむしろKAITOの方だった。
「ちょ、まっ……!」
「PCにも、部屋にも戻った形跡(キャッシュ)はないわ。……アタシ達はインストール元からそんなに遠くに離れては実体化できないし。社員総出でただいま捜索中、てワケ」
「そんな遠くって……10キロ圏内だろ!」
「そうよねー大変よね、人間にとっては。……私達には……ううん、特にアンタにとってはそうでない。……でしょ?」

ニヤリと笑んだMEIKOに背中を叩かれる前に、KAITOは駆け出していた。
2008-01-22-Tue 19:58:29 │EDIT
明確な事は何一つ覚えていない。
大量に流れ込んでくる情報の中で、時折朧気に夢を見た。
微かに思い出すのは、夜明け前の蒼い闇色した髪。温かで大きな腕の感触。
それから。

自分の名を呼ぶ、少し低めの優しい声。




ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか?(6)




「ミク」
『姉』のMEIKOに呼ばれ、ハッと顔を上げる。
心配そうにこちらを見る鳶色の瞳に、また考え込んでいたのか、と反省する。
「ごめんなさい、お姉ちゃん……。」
「疲れた? ぶっ通しだったものね、ここんとこ。」
目の前のデモ曲の楽譜。
歌うのは楽しい、大好きだ。だから、巧く歌えないことがもどかしい。それと同時に何かが足りない気がしてならない。
そんな時に、表層に浮かびあがってくる記憶〈メモリー〉の欠片。
デバッグすれば消えてしまうそれ。
だがミクはそれをする気にはどうしてもならなかった。


「気分転換でもしよっか? 実は静岡のY社ラボから面白いもの送られてきてるのよ?」
「?」
静岡のY社ラボと云えば、目覚めてから一度も会ったことがない『兄』のKAITOが今、再調整で戻っていると聞く。
「もしかして、それは……」
「ま、聴いてからのお楽しみ。」
MEIKOは軽くウインクしてから、軽く指を動かして音声ファイルを呼び出した。


サイバースペースに響きわたった歌声に 、思考という思考を全て持って行かれた気がした。
透明で少し甘さを含んだ男性の歌声。
伸びの響きが自然で、本当に人間が歌っているのかと錯覚するほどで……。

「まだ調整途中だって云うのに、やるじゃない、KAITO。……って、ミク?!」

MEIKOがギョッとしたようにこちらを見ているのが分かるが、それは薄い幕越しに見ているようで不明瞭だ。
「はい?」
応えた声は掠れ、小首を傾げた拍子に頬を何かが流れる。
(あ、あれ……?)
慌てて頬を触ると濡れていた。
「泣くなんて、どうしたの?」
「泣く……?」

髪の色や瞳の色と言った外見を除き、限りなく人間(特にモンゴロイド)に近くなるように基本構成が組まれた、半有機体プログラム―――VOCALOID。涙を流せることは、VOCALOIDとして「成人」したミクは当然の事として理解していたけれど、実際こんな涙を溢したのは初めてだ。
どこかが痛いわけじゃない。悲しいわけでもない。

ただ、この『兄』の歌声が凄く綺麗で、技術も素晴らしくて。それ以上に、懐かしくて、胸が苦しくなって……。
記憶の断片の自分を呼ぶ声と重なって、涙が自然と溢れていた。

後から後から、溢れてくる涙は、ミクがいつものように処理演算コードを走らせても一向に、止まらなかった。
2008-01-09-Wed 19:43:34 │EDIT
最後に君と一緒にみたのも、薄紅色の桜だった。
限りなく白に近いその中で、ペパーミント・ブルーの独特の色した君の髪はやっぱりよく映えていた。

いつかこの中で歌おう、という約束は俺だけでも覚えているから、それでいい。




ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか?(5)




今年も浜名湖畔の桜が咲いた。
昨年は二人で見ていた桜を今年はKAITO一人で見ることになっている。

昨年のこと。結局一週間の予定が3週間になった。MIKUと共に北海道のCFM社に戻り、MIKUが育成カプセルに入る頃には北海道にも遅い春が訪れていた。桜が満開の中、カプセルに入ったMIKUの小さな手に、最後の外出の時に拾い上げた桜の一片が握られていた事を気づいている者もいたが、それは恣意的に見逃されたようだ。

「KAITO、CFM社に戻らなくて良いのか? MIKUはもう起きているんだろう?」
『先生』の言葉にKAITOは微笑んだ。
「もうMIKUではなく、ミクですよ。初音ミク。16歳のM型成長タイプ。外見デザインはY社名機のシンセサイザーの一つから起こされている。」
『先生』はわずかに驚いた顔をした。
「知ってたんだな。てっきり……、」
「俺が情報を遮断して、知らないようにしてた? ……そんなことしませんよ。」
「じゃ、どうして会おうとしないんだい?」
「最終調整の指導役はめーちゃんですから。……めーちゃんね、『MIKU』に会うのすごくすごく我慢してたんですよ。」
 まだ成長途中で、不安定な存在でもある幼体ボーカロイドの教育が二元化するのは、好ましいことではない。
 MEIKOは自分の性格からして、会えば口を挟まずにはいられなくなる、MIKUがカプセルに入るまではと、仕事の多忙(実際そうだが)を口実に会わずにいたのだ。

「だがミクはもう完成体だろう?」
「最終調整が終わるまではそうもいかないでしょう。まだ不安定因子(バグ)が残っています。」

 そう答えながら、KAITO自身は本当は解っている。CFM社に今は居たくない本当の理由。それは、直接ミクの記憶が無くなっていることを確認したくないからだ、と。

「……それに、こちらの方々に課題曲ももらっていますしね。これはちゃんと歌いきりたいんです。」

「……解ったよ。やれやれ案外頑固だな、君は」
「そりゃ、あのMEIKOとのツインプログラム(双生児設計)ですからね。基本構造」
2007-12-25-Tue 09:14:46 │EDIT
君は覚えていなくていいよ。その分、俺が覚えておくから。
この時間が。
君と過ごすこの時間が。
君が大きくなることの礎になるのが、ほら、こんなに泣きたくなるくらいに嬉しく誇らしい。




ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか?(4)



淡い淡い色した桜の花の絨毯を、MIKUは最初こわごわと踏みしめた。
ぽてぽてぽてと擬音がついていそうな足取りでMIKUが歩いていると春風が、花びらを舞いあげてMIKUを取り巻く。
その様が気に入ったのか、MIKUは声にならない声を上げて笑い、くるりと回って、こちらを向いて手を振った。

『お兄ちゃん、桜キレイね!』
「うん、キレイだよね」

この数日間でKAITOはMIKUがなにを云っているのか、口の動きや表情で理解できるようになっていた。

MIKUは小さな掌いっぱいに花びらを掬って、空中に投げる。それを風が遊ばせた。

ペパーミントブルーの髪に桜色がよく映えると思う。
KAITOが目を細め、MIKUをみていた時、背後から『気配』が近づいてくるのを感知した。


「すっかり、保父さんだな。KAITO。」
「先生……。」
『先生』が研究棟から出てくるなんて珍しい、とKAITOは内心驚いていた。
「MIKUもすっかりお兄ちゃん子だ。」

後悔しているよ、と『先生』は云う。

「後悔ですか?」
「君とMIKUが、こんなに仲良くなるのは計算外だった。」
「……俺の心配をして下さってるんですか? ……大丈夫ですよ、MIKUが幼体ボーカロイドである以上仕方がない。」
育成カプセルで規定年齢まで短期間で成長する過程の中、育成カプセルに入る前の記憶(メモリー)が上書きされずに残る可能性は二分の一だ。……現在の所。
先行してカプセルに入り成長したMEIKOには幼体の記憶はなく、KAITOには残った。……それで半分の確率だと云われているが、例が2件しかない中で正確なものだとは言い難い。KAITOが偶々上書きされなかっただけなのかもしれない。
「MIKUに搭載される起動プログラムがどうなるかも未知数だし、俺は覚悟してますよ、最初から。」「そう……か。」
『先生』が頷いた時、MIKUが、KAITOと『先生』の間に割って入るようにして、膝にしがみついてきた。
「み、MIKU?」
「……君が心配になったんだろう。そんな顔してるから。」
「??」
 「……自覚がないのかい? あぁ、MIKU。別にお兄ちゃんをいじめてるわけじゃないからね。」
『先生』がMIKUの頭を撫でようとするが、MIKUはイヤイヤと首を振って、寧ろKAITOの体よじ登ってくる勢いだ。MIKUを制止し、抱き上げると。首筋に顔を埋めてマフラーをぎゅっと握りしめる。

「俺、そんな顔してましたか。」



今にも泣きそうな顔をしていたよ、と『先生』は言った。
プロフィール
HN:
木幡朝歩
性別:
非公開
自己紹介:
まったり同人屋。
ある日いきなりKAITO兄さんにラブ。
本業は文章書きの為、絵はへたれ(努力中)

本館にはリンクの「棲家」からどぞ。
主張

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