最後に君と一緒にみたのも、薄紅色の桜だった。
限りなく白に近いその中で、ペパーミント・ブルーの独特の色した君の髪はやっぱりよく映えていた。
いつかこの中で歌おう、という約束は俺だけでも覚えているから、それでいい。
ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか?(5)
今年も浜名湖畔の桜が咲いた。
昨年は二人で見ていた桜を今年はKAITO一人で見ることになっている。
昨年のこと。結局一週間の予定が3週間になった。MIKUと共に北海道のCFM社に戻り、MIKUが育成カプセルに入る頃には北海道にも遅い春が訪れていた。桜が満開の中、カプセルに入ったMIKUの小さな手に、最後の外出の時に拾い上げた桜の一片が握られていた事を気づいている者もいたが、それは恣意的に見逃されたようだ。
「KAITO、CFM社に戻らなくて良いのか? MIKUはもう起きているんだろう?」
『先生』の言葉にKAITOは微笑んだ。
「もうMIKUではなく、ミクですよ。初音ミク。16歳のM型成長タイプ。外見デザインはY社名機のシンセサイザーの一つから起こされている。」
『先生』はわずかに驚いた顔をした。
「知ってたんだな。てっきり……、」
「俺が情報を遮断して、知らないようにしてた? ……そんなことしませんよ。」
「じゃ、どうして会おうとしないんだい?」
「最終調整の指導役はめーちゃんですから。……めーちゃんね、『MIKU』に会うのすごくすごく我慢してたんですよ。」
まだ成長途中で、不安定な存在でもある幼体ボーカロイドの教育が二元化するのは、好ましいことではない。
MEIKOは自分の性格からして、会えば口を挟まずにはいられなくなる、MIKUがカプセルに入るまではと、仕事の多忙(実際そうだが)を口実に会わずにいたのだ。
「だがミクはもう完成体だろう?」
「最終調整が終わるまではそうもいかないでしょう。まだ不安定因子(バグ)が残っています。」
そう答えながら、KAITO自身は本当は解っている。CFM社に今は居たくない本当の理由。それは、直接ミクの記憶が無くなっていることを確認したくないからだ、と。
「……それに、こちらの方々に課題曲ももらっていますしね。これはちゃんと歌いきりたいんです。」
「……解ったよ。やれやれ案外頑固だな、君は」
「そりゃ、あのMEIKOとのツインプログラム(双生児設計)ですからね。基本構造」
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