※アニメ版の19歳結婚の方で。
=Promise=
「幾久しくお納め下さい」
「い、いくひさしくおうけいたしますっ!」
上擦った声でつっかえながらの返答。父重樹から相原の父に。相原の父から琴子にと渡された三方を受け取った山吹色の振袖から覗く小さな白い手が震えている。
よくも途中で結納目録ごと三方をぶちまけなかったものだと妙な所で感心しながら、直樹は相原の父、重雄の返答口上を聞いていた。
急なことで仲人を立てる時間もない。――――元より仲人など立てるつもりもなかったが――――自然、略式となる結納は、直樹の母紀子の結婚式開催宣言から直近の先勝の日曜に、重雄の居室で執り行われた。
聞けば、両家の故郷になる九州の習い、結納前の事前結納「寿美酒=一生固め(酒一升と鯛一匹、番茶一包)」は、宣言次の日に重雄の店に届けられたというから、凄まじい。
当事者である筈の自分と琴子を置いて、周囲だけが――――特に母が――――恐ろしいスピードで結婚に向けて加速している。
(……全く。どこをどうしたらこうも迅速に準備できるんだ。)
母の琴子が絡んだ時の行動力は人間離れしているようで疑わしい、と常日頃から思っていたが、今回は自分と琴子の結婚が要因となっているから、いつにも増している。
来週の今頃もまた、こんな風に感じながら――――スーツではなくタキシード を着て、式場控え室で座っているのだろう。
窓越しの梅雨晴れの青空が澄んでいて、琴子の山吹色の振袖と未だ緊張に震えている小さな手の白さとのコントラストが、やけに綺麗に目に映って印象的だった。
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