何故か、気がついたらここに来ていた。
初めての筈なのに、ここにたどり着いた瞬間、懐かしいような安堵したような……涙が溢れて止まらなかった。――――「兄」の歌を初めて聴いた時と同じだった。
ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか? 8
何故だかそこにいると思った。
VOCALOID相互トレーサープログラムを立ち上げるまでもなく、そこに足を向けていた。
人間でいう予感や直感というものか。
(……いや、願望なのか)
「今のミク」がそこに行く可能性は0にも等しい。それでも―――。
確かめずにはいられなかった。
CFM社からほど近くにある小さな公園。育成カプセルに入る前のミクを、こっそり何度か連れてきたことがあったその場所。
滑り台の下の大きな土管の中を思わせるような、コンクリ台に空けられた空間が当時のミクはいたく気にいっていた。
足を踏み入れた公園は――――あの頃と同じように、桜は咲き誇り、風に花弁を遊ばせていた。
造りものの筈の心臓が自棄に音を立てている。
構成プログラムが今にも暴走しそうな気がした。
花びらに染められた遊具の中、一際大きな滑り台。
深呼吸を一つして、KAITOはそれに近づいた。
いた。
彼女だ。
抱えた膝に顔を埋めて、声を殺して泣いている、淡い青みがかったペパーミント色した長い髪の少女。
「……ミク?」
やっとのことでかけた声に、少女は顔を伏せたままビクリと震えた。
「見つけた。ミクだね?」
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