初めて見た時、31のチョコレートミントとポッピングシャワーを食べたくなったなんて、口が裂けても云えやしない。
■ボーカロイドはペパーミント・ブルーの夢を見るか?(1)
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KAITOがY社に『里帰り』したのは、無事リリースも終えた4月の中頃。名残の桜が季節外れの雪のように風に舞い散る中だった。
最終調整の直前まで、浜名湖湖畔にあるこのY社で育ったKAITOにとって、静岡(ここ)が実家のようなものだった。
「大きくなったなぁ」
「見違えたよ」
父母とも言える開発者達にかけられる言葉をくすぐったく感じながらも応えつつ、呼び出しを受けたボーカロイド育成棟へと足を進める。
数ヶ月前まで、自分の居室(育成PC)もあったその建物が、どこか小さくなったと感じるのは、KAITO自身が『成長』した姿になったからなのか。
棟と棟を結ぶ強化ガラスで覆われた回廊は、今は壁面が開放されており、心地良い風と淡い薄紅の花弁の舞を直接感じることができた。
既にインプットされているサクラサクラのフレーズが口をついて出る。
(ああ、やっぱり俺は……、俺達は)
-――――歌うために生まれてきた。
サクラサクラを口ずさみつつ育成棟に入る。
小さく口ずさんでいた筈が、エントランスホールの吹き抜けに大きく反響した。
小さなホールも兼ねているんだったな、そういえば。とKAITOは口を噤む。
『KAITO?』
スピーカーから慣れしたんだ声がした。―――Y社での基礎教育を担当してくれた研究者のものだ。
「はい、先生」
おそらくモニターカメラでこちらは見えているのだろう。
『育成ルームにきてくれ。君の部屋であった場所だ。』
指示に従い、懐かしい部屋に足を踏み入れる。
振り返る「先生」の白衣の裾からちょこりと顔を出した、幼い少女の形態をしたVOCALOIDを見た時、KAITOは思った。
――――31のチョコレートミントとポッピングシャワーを食べたいな、と。
タイトルのネタ元はフィリップ・K・ディックからでも川原泉からでもお好きな方を(汗)
幼女ミクと青年KAITO。(むしろ保育士KAITOかも)の予定。
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